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株式交付の可能性とリスク

2022-02-032022-02-03

株式交付の税制

前回、株式交付について見ていきましたが、買収会社の株式の価額の割合が80%以上であれば、その交付を受ける買収株式に対応する部分については、株主において譲渡所得の課税がないと申し上げました。言い換えれば、20%部分については金銭も交付できる訳で、被買収会社の株主のニーズに沿う形で企業買収がしやすくなると考えられます。なお、交付を受けた金銭に対応する部分については、譲渡所得の課税の対象になります。

株式交付と適格組織再編成

この株式交付ですが、注意したいのは「新しく」会社を子会社化する時に使える制度、という点です。このため、現状子会社である会社に対し、その株を買い増しするために使える制度ではありません。中小企業の場合、多くの会社はオーナーが50%超~100%子会社なので適用局面は限られるとも言われます。

しかし、レアケースとして、新しく子会社化しようとする会社がある時にはこの株式交付は大きなインパクトを持ちます。具体的には、組織再編成が非課税とされる適格要件を満たしやすくなる、というメリットです。

株式交換などの組織再編成は、所定の適格要件を満たす場合に法人税が非課税となる適格組織再編成に該当しますが、この適格要件は、買収企業と被買収企業の資本関係によって異なり、ごく簡単に言えば完全支配関係や50%超の支配関係がある場合より、これらの支配関係がない場合の方が厳しい内容になっています。このため、支配関係がない会社に対し、組織再編成を行う前に株式交付を行うことで、適格要件をより満たしやすくすることが可能になると言われています。

とりわけ、支配関係がない会社に対し、完全子会社化を考える際はこれを活用するのがいいと言われます。というのも、完全子会社にする場合、通常は株式交換を行いますが、非課税とされる適格株式交換より、80%以上買収企業の株式を交付すればその部分は非課税とされる、株式交付の方が使いやすいため、こちらを利用する局面が増えると思われます。

租税回避否認の対象になり得るという見解も

合併や株式交換などの組織再編成については、それが節税目的で行われるなど一定の場合には、その取引を否認できるとする行為計算否認規定の対象になるとされています。条文上、組織再編成に株式交付は含まないとされていますが、財務省によると、この株式交付も行為計算否認の対象になり得るという解説があります。

となると、露骨な節税目的の株式交付については、国税から厳しいチェックがなされる可能性がありますので、専門家に相談の上、慎重に対応することとしましょう。

この記事を書いた人

松嶋 洋(元国税調査官・税理士)

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東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。

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