累進課税
2022-12-082022-12-08
一言でいうと?
累進課税(るいしんかぜい)とは、所得や遺産の額が増えれば増えるほど、税額が高くなる制度で、税負担の公平の実現と、格差社会をなくすために導入され、「所得税」、「贈与税」、「相続税」に適用されています。
累進課税 とは
累進課税とは、収入が多くなるほど高い税率を課す制度で、累進課税制度には大きく分けて「単純累進課税」と「超過累進課税」の2種類があり、日本では「超過累進課税」が使われています。
「単純累進課税」が、課税所得額が一定額を超えた場合に全体の税率が一気に上がるのに対して、「超過累進課税」は一定額を超えた部分のみ、高い税率が適用されていくシステムで、税率が変わるちょうど境目に当たった場合、納税額が急激に上がるということを防いでいます。
累進課税制度が導入される理由
累進課税制度は、税金を負担できる力(担税力)を考慮して税率を変化させていくシステムで、それにより公平な納税の実現を図っています。
富が相続財産として次世代に継承され格差が固定してしまうことを防ぐため、相応の税金をかけて、収入や相続財産の多いところから、少ないところに分配されるようにすることを「所得の再分配」といい、累進課税の目的のひとつとなっています。
また累進課税制度を適用する税金としない税金の両方を作り、税金徴収のバランスも取っており、「消費税」は、累進課税でない税金の代表です。
超過累進課税の計算方法
累進課税の対象となるのは、所得税・相続税・贈与税の3つの税ですが、それぞれ異なる税率や控除の段階制となっています。
超過累進課税の計算は、非常に手間がかかりますので、課税所得の区分ごとに税率と控除額が一覧で表示された「速算表」を使用して計算するのが一般的です。
累進課税の控除制度
累進課税で計算される所得税額の計算においては、社会保険料控除といったさまざまな控除制度が活用でき、収入から基本課税所得額を算出するときに、以下の控除分を事前に差し引くことができます
・青色事業専従者給与
・基礎控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・障害者控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・医療費控除
・雑損控除
・寄付金控除
など
所得税の中で累進課税となるもの
所得税は所得の書類によって計算方法が総合課税、申告分離課税、源泉分離課税に分けられ、このうち累進課税が適用されるのは主に総合課税で、給与、個人事業主の事業所得、アパート所得、ビットコインの売却益などが当てはまります。
申告分離課税は、山林所得や土地・建物の譲渡所得、株式等の譲渡所得などで総合課税とは所得を分けて税額を計算し、申告によって課税します。
源泉分離課税は、利息支払時に金融機関から税額分を源泉徴収される銀行口座の利息などで総合課税と分けて税額を計算しますが、申告はせず源泉徴収されるものです。
所得税の超過累進課税の計算法
所得税の超過累進課税の計算は年収そのままではなく、まず、年収から必要経費、基礎控除などを差し引いた課税所得金額をもとに計算します。
所得税の超過累進課税率・控除額の「速算表」
所得税の超過累進課税率・控除額は課税所得金額で区分します。
195万円未満→税率5%、控除0円
195万円以上330万円未満→税率10%、控除97,500円
330万円以上695万円未満→税率20%、控除427,500円
695万円以上900万円未満→税率23%、控除636,000円
900万円以上1,800万円未満→税率33%、控除1,536,000円
1,800万円以上4,000万円未満→税率40%、控除2,796,000円
4千万円以上→税率45%、控除4,796,000円
所得税の超過累進課税の計算例
所得税の超過累進課税の計算は、上記早見表を使って計算します。
例えば課税所得金額が500万円であれば、早見表より超過累進課税の税率20%、控除427,500円となりますので、計算は、500万円×20%-427,500円=572,500円で、所得税額は572,500円となります。
相続税の超過累進課税の計算法
相続税の超過累進課税の計算には、まず、遺産総額の評価額に相続時精算課税制度の適用があればその額を加え、非課税財産、葬式費用、債務を差し引いた額を出し、相続時精算課税適用財産以外の相続開始前3年以内の贈与財産を加え、正味の遺産総額を出します。
正味の遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いた課税遺産総額を法定相続分に応じて取得したものとして法定相続人に配分した後、それぞれにおいて累進課税で税額を計算した上で合計税額を算定し、最後はその合計税額を実際の相続取得額によって税を配分します。
実際には、各人の納付額は配分された税額から配偶者の税額軽減や未成年者控除などの控除を差し引いた額となります。
相続税の超過累進課税率・控除額の「速算表」
相続税の超過累進課税率・控除額は、法定相続分での分配金額で分けられます。
1,000万円以下→税率10%、控除0円
1,000万円超3,000万円以下→税率15%、控除50万円
3,000万円超5,000万円以下→税率20%、控除200万円
5,000万円超1億円以下→税率30%、控除700万円
1億円超2億円以下→税率40%、控除1,700万円
2億円超3億円以下→税率45%、控除2,700万円
3億円超6億円以下→税率50%、控除4,200万円
6億円超→税率55%、控除7,200万円
相続税の超過累進課税の計算例
例えば正味の遺産総額が1億円で、相続人が子ども2人の場合の計算は、まず正味の遺産総額から基礎控除を差し引いて課税遺産総額を出します。
1億円-(3000万円+600万円×2人)=5,800万円
法定相続分で分配した一人当たりの課税遺産額は、
5,800万円×1/2=2,900万円
ここで早見表を使って子ども一人あたりの超過累進課税の相続税を計算すると、
2,900万円×15%-50万円=385万円
相続税の総額は、385万円×2人=770万円となります。
計算した相続税の総額を各人の実際の相続取得額によって分けます。
贈与税の超過累進課税の計算法
贈与税の計算と納税は「暦年課税」のほか、「相続時精算課税」を選択できますが、累進課税は、「暦年課税」に適用されます。
1月1日から12月31日までの暦年ごとに、贈与を受けた金額のすべてと、生命保険金の満期金などの「みなし贈与財産」などがあればそれも合算し、そこから祝い金などの非課税財産と基礎控除を差し引きます。
累進課税である暦年課税の贈与税の基礎控除は、すべての受領額の合計に対して年間110万円です。
また法人からの財産の贈与は、贈与税ではなく所得税の対象となります。
贈与税の超過累進課税率・控除額の「速算表1」
暦年課税の基礎控除(110万円)を引いた後の超過累進課税率・控除額の課税区分は原則として以下のようになります。
200万円以下→税率10% 控除0円
300万円以下→税率15% 控除10万円
400万円以下→税率20% 控除25万円
600万円以下→税率30% 控除65万円
1,000万円以下 →税率40% 控除125万円
1,500万円以下→税率 45% 控除175万円
3,000万円以下 →税率50% 控除250万円
3,000万円超→税率 55% 控除400万円
贈与税の超過累進課税率・控除額の「速算表2」(特例税率の場合)
ただし、父母や祖父母などの直系尊属からその年度の1月1日時点で18歳以上である受贈者が贈与を受けた場合は、特例税率となります。
200万円以下→税率10% 控除0円
400万円以下→税率15% 控除10万円
600万円以下→税率20% 控除30万円
1,000万円以下 →税率30% 控除90万円
1,500万円以下 →税率40% 控除190万円
3,000万円以下 →税率45% 控除265万円
4,500万円以下→税率 50% 控除415万円
4,500万円超→税率55% 控除640万円
贈与税の超過累進課税の計算例
父から300万円、叔父から200万円贈与された場合は、まず贈与金額合計から基礎控除を差し引きます。
(300万円+200万円)-110万円=390万円
父は直系尊属なので特例税率の超過累進課税率表、叔父は一般の超過累進課税率表で確認します。
父からの贈与の税金は、(390万円×15%-10万円)×300/500=29.1万円
伯母からの贈与の税金は、(390万円×20%-25万円)×200/500=21.2万円
29.1万円+21.2万円=50.3万円が贈与税支払額となります。
累進課税のメリット・デメリット
累進課税のメリットとしては以下の5つがあります。
- 富の再分配
- 所得格差の是正
- 身分の固定化・世襲を阻止する硬貨
- 相続すると税金が高くなるので、貯金に回さず消費を促進させる硬貨
- 時期をずらすことや控除、経費を使って節税が可能
累進課税のデメリットは以下の3つが考えられます。
- 労働意欲の減退
- インフレによる納税額の変動
- 高所得者層の海外への移住の促進や消費の抑制
累進課税のよもやま話・豆知識
「単純累進課税」と「超過累進課税」の比較
累進課税には、「単純累進課税」と「超過累進課税」の2種類の計算法があります。
日本で使用されるのは、「超過累進課税」のみですが、「単純累進課税」と比較することで税の本質が見えてきます。
例えば、単純累進課税の計算では、所得300万円の場合と所得400万円の場合では、所得100万円の上昇に対して、50万円も税金が高くなります。
一方超過累進課税所の計算では所得100万円の上昇に対して、14万円程度の税金の上昇にとどまります。
穏やかな税金の上昇となり、また各所得の税金自体も抑えられます。