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繰延資産

2023-01-122023-01-12

一言でいうと?

繰延資産(くりのべしさん)とは、会社または個人事業主が支出する費用のうち、その支出効果が1年以上の長期間にわたって及ぶとされる一定の資産のことで、繰延資産は、支出後に資産として計上した後に、その効果が及ぶとされる数年間にわたって償却し、費用化していきます。

繰延資産とは

繰延資産とは、すでに発生・支払いが済んでいる支出のうち、年度をまたいで費用化することが認められるものを言い、例えば、会社設立時にかかった登記費用や定款の作成費用などがその例です。

繰延資産となる要件には、代価の支払いが完了しているか、または支払い義務が確定していること、対応する役務(サービス)の提供を受けていること、その効果が1年以上の将来にわたって及ぶことなどがあります。

繰延資産の分類と特徴

繰延資産は、賃借対照表の資産の部に表示する資産のうち、固定資産にも流動資産にも該当しないもので、貸借対照表では、貸方の固定資産、流動資産の下に記載されます。

繰延資産は、換金価値を持たない「擬制資産」に分類され、資産として分類されるものの、具体的な財産価値を持たない資産となります。

建物や機械などの固定資産は具体的な財産価値を持っていますが、開業費などの繰延資産は、売却や譲渡で財産価値を生み出すことができません。

繰延資産は、費用化を先延ばしている価値のない資産という捉え方もできます。

繰延資産のメリット

繰延資産を計上することによって、その事業年度の資産を増やしたり、費用を削減するということが可能となります。

会社設立後まもない段階で、十分な売上を計上できない場合、会社設立費用を一期の費用として計上してしまうと、初年度が大きな赤字になる可能性があります。

繰延資産の種類

繰延資産は、会社法における「会計上の繰延資産」と、税法における「税務上の繰延資産」に分類され、対象となる項目と償却方法、償却期間などに違いがあります。

また、税法上の繰延資産については、会社法上のものとは異なり、繰延資産としての経理処理が強制されています。

会社法上の繰延資産

中小企業の経理実務においては、以下の会社法上の繰延資産の計上は任意で行うことになります。

創立費…定款作成や登記など会社設立のために要した費用

開業費…会社設立後、実際に事業を開始するまでの間に要した広告費や通信費、電気・ガス・水道料金など

株式交付費…新株発行等のために要した費用

社債発行費…社債を発行するために要した費用

開発費…新技術や新市場の開拓等に要した費用

税法上の繰延資産

以下については、税法上の繰延資産の経理処理が強制されています。

・公共・共同的施設の設置又は改良に要する費用…商店街のアーケード設置など

・建物等を賃借するために支出する権利金等…賃貸借契約時の礼金や権利金など

・役務提供を受けるための権利金…ノウハウ使用やフランチャイズ加盟料など

・広告宣伝用資産の贈与による費用…飲食店等への宣伝用ショーケース贈与など

・その他、自己が便益を受けるための費用

実務において多いのは不動産の賃貸借時の礼金や権利金の処理で、フランチャイズの加盟金も多くあります。

繰延資産の償却方法と償却期間

繰延資産として計上する際の償却方法は、償却期間で均等に費用を配分する「均等償却」と、即時償却する「任意償却(一時償却)」の2種類から選びます。なお、税法上の繰延資産は均等償却が強制されます。

繰延資産の償却期間は以下のように定められていますが、法人税を算出する際に会社の利益を見ながら年度をまたいで調節できる点がポイントです。

会社法上の繰延資産の償却期間

均等償却を選んだ場合には以下のように償却期間が決められていますが、これらの会計上の繰延資産については任意償却も認められており、好きな時に好きなだけ費用にできます。

創立費 開業費 開発費 5年

株式交付費 3年

社債発行費 社債の償還期限内に利息法償却、新株予約権発行費は3年以内に定額法償却

ただし開発費に関しては注意が必要で、大手企業などで採用されている「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費については、繰延資産としての計上が認められていません。

税法上の繰延資産の償却期間

・資産を賃借するための権利金

賃貸借契約時の礼金など 

償却期間は5年(返還される敷金や保証金は含まれません。)

・広告宣伝用資産

法人が特約店などに、自社製品の広告宣伝のために、看板やショーケースなどの資産を贈与する費用 

償却期間は、耐用年数の10分の7に相当する年数(耐用年数が5年を超えるときは5年)

・役務の提供の権利金

フランチャイズへの加盟金や、ノウハウの使用料など 

償却期間は5年

・公共的施設の負担金

商店街のアーケードなど、自社が直接・間接的に便益を受ける公共的施設の設置や改良のための支出 

償却期間は、耐用年数の10分の7に相当する年数

税法上の繰延資産の償却期間の注意点

税法上の繰延資産は、償却期間の設定が複雑なので、詳細は、国税庁のHPで確認をしましょう。

特に複雑な「建物の権利金や礼金等の償却期間」の例を以下に紹介しますが、20万円未満の費用については、支出時に全額費用として処理をして良いことになっています。

また契約による賃借期間が5年未満の場合で、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要するときは、その賃借期間が償却期間となります。

個々のケースによって様々な違いもありますので、詳しくは、税理士に相談しましょう。

税法上の繰延資産の「建物の権利金や礼金等の償却期間」の例

以下は建物の新築や賃貸借時の権利金や礼金等の償却期間の例となります。

・建物の新築に際して支払った権利金等で、その金額が建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、その建物が存続する期間中は賃借できる状況にあると認められる場合…その建物の耐用年数の10分の7に相当する年数

・建物の賃借に際して支払った上記以外の権利金等で、契約や慣習などによって、明渡しに際して借家権として転売できることになっている場合…その建物の賃借後の見積残存耐用年数の10分の7に相当する年数

上記例以外の権利金などの場合…5年

繰延資産の仕訳と計算

創立費100万円についての仕訳と償却額の計算例は、以下のようになります。

・繰延資産として計上せず、一括償却する場合

仕訳

借方           貸方

創立費 1,000,000    現金 1,000,000

・繰延資産に計上し、5年間で均等償却する場合

計算式

繰延資産の金額×当期の月数÷償却期間の月数=会計年度の償却額

1,000,000 × 12 ÷ ( 12 × 5 ) = 200,000

(繰延資産は月割で償却額を計算します)

仕訳

借方           貸方

創立費償却 200,000   創立費 200,000

繰延資産のよもやま話・豆知識

粉飾決算や過少申告につながる繰延資産

本来、費用である開発費を繰延資産の悪用で資産計上を進めていけば、大きな資産を有した黒字優良企業にみせかけることができ、金融機関から不正に融資を引き出したり、株価を引き上げるような粉飾につながります。

そのため「研究開発費等に係る会計基準」に基づいて、開発費用の資産計上は制限が設けられています。

繰延資産が強制されている賃貸借契約時の礼金や権利金を一回で費用計上し、法人税の計算上調整しなければ、その事業年度において費用の過大計上が行われることになり、過少申告につながります。

適切な繰延資産計上ができているかどうかは、貸借対照表、損益計算書の他の資産や費用と比較しチェックしましょう。

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