法定福利費
2023-05-312023-05-31
一言でいうと?
法定福利費(ほうていふくりひ)とは、従業員を雇っている事業者に負担が義務付けられている社会保険料、労働保険料などのことをいい、特に建設業界では、法定福利費は、見積書にその内訳を記載しなければならない費用となっています。
法定福利費とは
法定福利費は、従業員を雇用している事業主が負担しなければならない社会保険料や労働保険料の費用のことで、一定の条件の基、必ず負担しなければならないと法律や法令で定められています。
法定福利費の支払いの内訳は、事業主負担分と従業員負担分がありますが、労災保険などは全額事業主負担となります。
従業員負担分は、給料支払い時などに天引きして預り金扱いとし、その後事業主負担分と合わせてまとめて支払います。
また事業主負担分は、法定福利費として経費に計上できます。
法定福利費と福利厚生費の違い
法定福利費と福利厚生費は混同しやすいですが、法定福利費は「事業主に義務付けられているもの」に対して、福利厚生費は「事業主が任意で提供しているもの」という違いがあります。
福利厚生費には、例えば、通勤手当や健康診断費用、社宅の提供、残業時の食事代などが該当します。
法定福利費の種類
法定福利費は、社会保険(厚生年金保険、健康保険)や労働保険(労災保険、雇用保険)などの全部で6つの種類があります。
法定福利費の「厚生年金保険」
法定福利費の厚生年金保険は、従業員の老後に備えるための保険で、事業主と従業員が半分ずつ負担します。
法定福利費の厚生年金保険の強制適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所ですが、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて強制適用事業所となります。
短時間労働者の場合の法定福利費の「厚生年金保険」
パートタイマー・アルバイト等でも1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である場合、法定福利費の厚生年金保険の対象となります。
また従業員総数が常時100人超(令和6年10月からは50人超)の事業所で働く場合、学生でないこと、週の所定労働時間が20時間以上であること、2か月を超えて雇用される見込みであること、賃金の月額が8.8万円以上であることのすべての条件を満たせば、法定福利費の厚生年金保険の対象者となります。
法定福利費の「健康保険」
法定福利費の健康保険は、従業員の病気やケガに備えるための保険で、医療費負担を軽減できる他、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金や、医療費が高額になった際の高額療養費制度があります。
法定福利費となる健康保険の健康保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担します。
健康保険の保険者は全国健康保険協会(協会けんぽ)および健康保険組合です。
法定福利費の「介護保険」
介護保険は、健康保険に加入している従業員のうち、40歳以上の方が加入する保険で、老後の介護を支えるためにあります。
65歳以上の人は、第1号被保険者となり、要介護状態や要支援状態の場合に、介護保険が適用されます。
40~64歳の人は、第2号被保険者となり、老化による指定16疾病により要介護認定を受けた場合に、介護保険が適用されます。
法定福利費の「労災保険」
法定福利費の労災保険は、従業員が仕事に起因する病気やケガをした際に、療養費などを受け取れる保険で、労災の対象は、業務上および通勤途上に起因したもののみが対象になります。
パート・アルバイトを含めすべての従業員が対象の保険で、雇用保険と合わせて「労働保険」とも呼ばれます。
労災保険料は事業主が全額を負担します。
法定福利費の「雇用保険」
雇用保険は、従業員の失業などに備えるための保険で、「失業手当」とも呼ばれる基本手当の他、再就職手当や教育訓練給付などの給付が受けられます。
加入対象者は、1週間に20時間以上働き、31日以上継続して雇用される見込みの従業員です。
雇用保険料は、事業主と従業員で事業の種類ごとで負担割合に応じた割合を負担します。
法定福利費の「子ども・子育て拠出金」
子ども・子育て拠出金は、子育て支援のために必要な財源確保のために設けられた拠出金で、厚生年金保険の被保険者である従業員を雇用している事業主が、「社会全体で子育て支援にかかる費用を負担する」という考えで、拠出金の全額を負担します。
この拠出金は、会社や事業主から従業員の厚生年金と一緒に徴収され、日本年金機構が徴収していますが、この拠出金は社会保険料ではなく、税金となります。
法定福利費の計算
法定福利費の健康保険、厚生年金及び介護保険の計算は、「標準報酬月額」を基に算定されます。
標準報酬月額とは「その年の4月から6月に支払われた給与の平均(交通費含む)」で、32等級に分かれており、その等級を基に、その年の9月から翌年8月までの健康保険、厚生年金および介護保険の法定福利費が決まります。
また労災保険と雇用保険は、それぞれ事業の種類に応じて料率が定められています。
実際に保険料額を計算する時には、賃金について前年度の支払い実績と当年度の支払い見込みを用いて保険料が計算されます。
法定福利費の「厚生年金保険」の計算
厚生年金保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担します。
厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正に基づき平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月を最後に引上げが終了し、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています(事業主負担9.15%、被保険者負担9.15%)。
厚生年金保険料 = 標準報酬月額または標準賞与額 × 18.3%
法定福利費の「健康保険」の計算
法定福利費の健康保険の保険料率は、約10%になっており、その約10%を事業者と労働者が折半して負担しますので、事業者が負担する割合は約5%、被保険者負担率は5%です。
ただし、健康保険料率はそれぞれの都道府県によって異なったり、保険者によっても違いますので、実際の健康保険率の確認は、全国健康保険協会(協会けんぽ)などの公式サイトで確認が必要となります。
健康保険料 = 標準報酬月額または標準賞与額 × 健康保険料率
法定福利費の「介護保険」の計算
介護保険料も、健康保険料・厚生年金保険料と同様、企業と従業員で折半となりますので、基本的な計算方法も同じとなります。
ただし介護保険料率は健康保険によって異なるため、自社の加入している健康保険の運営機関で確認が必要です。
例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)での介護保険料率は、令和5年3月分(5月1日納付期限分)から1.82%となっていますが、毎年全国一律で設定されます。
介護保険料 = 標準報酬月額または標準賞与額 × 介護保険料率
法定福利費の「労災保険」の計算
仕事が原因で怪我や病気をした際に従業員に給付される法定福利費の労災保険は、保険料は企業の全額負担となります。
法定福利費の労災保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)を単位として、全労働者に支払われる賃金の総額に、その事業ごとの保険料率を乗じて算定し、申告・納付については、雇用保険料と合わせて行います。
労災保険料率は業種によって細かく分けられ、年度改正もあるため、当年度の労災保険料表を確認しましょう。
労災保険料 = 全従業員の年度内の賃金総額 × 労災保険率
法定福利費の「労働保険」の年度更新
法定福利費の労働保険(労災保険・雇用保険)は、保険年度ごとに概算で保険料を納付し、保険年度末に賃金総額の確定後に精算しますので、事業主は、前年度の保険料を精算する確定保険料の申告・納付と新年度の概算保険料を納付する申告・納付(年度更新)の手続きを、毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。
手続きが遅れると、政府が保険料・拠出金の額を決定し、さらに追徴金(納付すべき保険料・拠出金の10%)を課すことがあります。
法定福利費の「雇用保険」の計算
法定福利費の雇用保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)を単位として、被保険者に支払われる賃金の総額に、その事業ごとの保険料率を乗じて算定し、申告・納付については、労災保険料と合わせて行います
法定福利費の雇用保険料は、企業と従業員それぞれで負担割合が定められており、業種別でも企業の負担割合が異なります。
雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険料率
法定福利費の雇用保険料率例
法定福利費の雇用保険料率は、厚生労働省のホームページで確認でき、令和5年度は職業別に以下のようになっています。
一般の事業は、雇用保険料率が15.5%(労働者負担6%、事業主負担9.5%)
農林水産・清酒製造の事業は、雇用保険料率が17.5%(労働者負担7%、事業主負担10.5%)
建設の事業は、雇用保険料率が18.5%(労働者負担7%、事業主負担11.5%)
園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖及び特定の船員を雇用する 事業については一般の事業の率が適用されます。
法定福利費の「子ども・子育て拠出金」の計算
子ども・子育て拠出金は、子どものいない世帯も含めて厚生年金の加入者全員が徴収の対象となります。
拠出金は、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料と同じく、標準報酬月額や標準賞与額に拠出金率(2020年4月以降は0.36%)をかけて算出します。
子ども・子育て拠出金 = 標準報酬月額または標準賞与額 × 0.36%
ただし、健康保険料と異なり、企業に全額負担が義務づけられています。
法定福利費の明示が義務付けられた建設業界
平成25年から建設業で法定福利費を含めた見積書の提出が義務付けられました。
これにより、建設業では、下請け企業は元請け企業に提出する見積書を作成する際に法定福利費を含めた金額を記載することが義務となりました。
建設業界で法定福利費の明示が義務付けられた背景
これまで建設業界は、法定福利費である社会保険未加入の企業が多く存在する傾向にありました。
きちんと各種保険に加入し、適切な保険料を負担している企業は、その分見積もりの金額が高くなってしまい受注を逃してしまうということがその理由としてあげられます。
その結果、労働者がけがや病気をした時の公的保障が確保されず、建設業界全体にマイナスなイメージがつき若年入職者が減少してしまうといった悪循環に陥っていました。
法定福利費の明示を義務付ける建設業界の取り組み
法律を守っている企業が損をし、法律に違反している企業が得をするといった競争の公平性が損なわれることがないよう建設業では一律で見積書の提出を義務付け、法定福利費の記載が義務付けられるようになりました。
見積書を提出してもそこにきちんと算出された法定福利費の記載がなければ、元請け企業から仕事を受けられません。
元請け企業は、下請け企業から見積書をもらう際に法定福利費が含まれているかを確認する必要があり、法定福利費が見積書に含まれていることを理由に費用の減額を求めるようなこともしてはいけません。
法定福利費のよもやま話・豆知識
法定福利費の健康保険の保険者の違い
健康保険の保険者は、全国健康保険協会(協会けんぽ)又は健康保険組合で、これらはいくつか違いがあります。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の主な加入対象者は、組合に入っていない企業の会社員で、健康保険組合の主な加入対象者は組合に入っている企業の会社員です。
保険料の月額は、全国健康保険協会(協会けんぽ)は、標準報酬月額の約10%で、健康保険組合は、標準報酬月額の約6~10%です。
入社した企業が「健康保険組合」に加入していればその組合健保に、そうでない時は協会けんぽに加入することになります。