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法人成り

2023-02-282023-02-28

一言でいうと?

法人成り(ほうじんなり)とは、個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、事業を法人に変更することを指し、法人成りをすると、会社の信頼性の向上や、資金調達や、節税対策などがしやすくなるメリットがありますが、社会保険の加入の義務など相応な負担も発生するため、法人成りをする場合には、事業内容や規模などを含め様々な角度から検討し、そのタイミングを測ることが重要となります。

法人成りとは

法人成りとは、個人事業主が手続きを行い、株式会社や合同会社などの法人に成り代わることで、通常の会社設立との違いは、個人事業主時代の資産や負債を会社が引き継ぐことです。

税の種類も、個人事業主時の所得税・住民税・個人事業税から、法人税・法人住民税・法人事業税・地方法人税・特別法人事業税に変わりますが、法人税の税率は、個人事業の所得税の累進課税と違い、20%前半でほぼ定率なので、ある水準を超えると所得税との税率が逆転し、最高税率は法人の方が低くなります。

法人成りの手続き

法人成りの手続きは、まず会社の目的、商号、本店所在地、資本金、発起人の名称及び住所、発行可能株式総数を決めて定款を作成します。

資本金を発起人の代表者個人の口座に払い込み、法務局で会社の設立登記を行い、完了後、税務署に法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書を提出します。

また年金事務所への届出、労働基準監督署・ハローワークへの届出、個人事業主の廃業届の提出、資産、債権・債務の移動、銀行口座を開設などが必要となります。

法人成りにかかる費用と時間

法人を設立するためにかかる法定費用の目安は、一般的には約24万円程度で、内訳はおおよそ以下のようになります。

公証人へ払う認証手数料 5万円

定款の謄本請求手数料  2,000円程度(必要部数によって異なり、1部につき250円)

定款に貼付する収入印紙代 4万円(電子定款の場合は不要)

登録免許税 15万円程度

また株式会社を設立するには、約2週間の時間がかかります。

法人成りにかかる最低資本と役員人数

平成18年に、最低資本金規制の撤廃、会社役員の人数の規制緩和といった法律の改正がなされ、法人成りは資金面、人材確保の点で従来よりもやりやすくなりました。

従来は、有限会社は最低資本金300万円、株式会社は最低資本金1,000万円という規制がありましたが撤廃され、資本金1円でも株式会社を設立することができるようになりました。

役員数は、法改正以前は、法人成りには株式会社設立の場合、最低4人の役員(取締役3人+監査役1人)が必要でしたが、非公開会社の場合、取締役が1人以上いればよいとされました。

法人成りのメリット

個人事業主から法人成りをしたときのメリットは以下のようなものがあります。

・会社の信用度が高くなる

・有限責任になる

・節税できる

・事業を継承できる

・決算月を任意に決められる

法人成りで上がる会社の信用度

法人成りで、会社の信用度があがる理由の一つは、法人は登記簿謄本により、会社の所在地や資本金、役員などの重要事項を確認できるからです。

また設立のコストを負担しているという点から、事業への本気度が高いと見られることができます。

取引先によっては法人としか取引をしないというところもありますので、法人成りをすることで販路が拡大したり、金融機関からの融資や補助金や助成金などの資金調達が容易になることがあります。

求人も、法人成りで応募者が増える場合もあり、人材の確保がし易くなる可能性があります。

法人成りによる有限責任化

個人事業主は、事業に失敗した場合、負債をすべて返済する必要がある無限責任を負います。

対して法人成りをして株式会社や合同会社となった場合は、有限責任になり、倒産などになった場合、出資した範囲内でのみ返済の責任を負うことになるため、再出発がしやすくなります。

法人成りによる有限責任と無限責任

法人成りの際に選択できる法人の形態は、主に株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つがあります。

このうち株式会社と合同会社は、自分が出資した額の限度で責任を負う「有限責任」となりますが、合資会社と合名会社は、会社の債務に対して全財産を投じてでも責任を負わなければいけない「無限責任」となります。

出資の観点からすれば、株式会社や合同会社の設立にメリットをが感じられますが、株式会社も経営に関して、株主の意向を考慮するなどの難しい局面も考えられます。

法人成りによる節税効果

法人成りによる節税要素には主に次の5種類があります。

・経費計上できる範囲が広くなる

・役員報酬(給与)に給与所得控除が適用される

・退職金を損金とすることができる

・欠損金の繰越控除可能期間が延長される

・消費税の納付が最大2年間免除される

法人成りによる経費計上できる範囲の拡大

基本的には、事業にかかった費用を全て経費として計上できるという点は、個人事業主も法人成りでも変わりませんので、打ち合わせの飲食代や新年会、忘年会などの会食代、交際費も経費となります。

それに加え、法人になると経費にできる項目が多くなり、たとえば、経営者本人及び家族従業員への給与、生命保険料、社宅、出張費や休日出勤の手当などが増えます。

納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下の場合に限られますが、事業主に扶養家族がいる場合には、配偶者控除や扶養控除が適用され、所得税の控除があります。

法人成りによる役員給与所得控除

法人成り後、役員報酬を支払うと、法人の収益から役員報酬分が経費として引かれ、残った利益に法人税がかかります。

また役員報酬自体にも給与所得控除があり、最低65万円、最高220万円が控除されますので、二度経費として計上できることになります。

法人成りによる退職金の損金扱い

個人事業主の場合は、退職金を支払う時は経費に計上することができませんが、法人成り後には、適正額であれば損金にできます。

法人成りによる欠損金の繰越控除可能期間の延長

事業の赤字は翌年以降に繰越し、翌年以降の事業所得と相殺することができますが、個人事業主の場合は、この繰越期限が、翌年以降3年間となっています。

法人成りをすることで、この繰越期限が9年または事業年度によっては10年間となります。

大きな事業をする場合には、その初年度に一時的に大きな赤字を抱えることもありますので、繰越期限が長くなることは得になると言えます。

法人成りによる消費税の納付2年間の免除

法人成りをして、消費税の納税の最大2年間免除に該当させたい場合は、資本金1,000万円未満であることと、設立1年目の前半6カ月で売上1,000万円を超えないことが条件となります。

資本金が1,000万円以上で設立された法人は、設立事業年度から課税事業者となる特例規定があるためです。

また前年の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超えた場合、その事業年度から課税事業者となりますので、設立1年目の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超えなければ、2年目も納税が免除されます。

法人成りによる事業の継承

法人成りをしていない個人事業主の場合は、事業主が仕事ができなくなってしまった場合、廃業の恐れがあり、事業主の子孫などが店を継ぐ場合でも、認可などは事業主である個人が対象になっているため、そのまま受け継ぐことはできず、その子孫は新たに開業届を出す必要があります。

対して、法人成りをして、認可などが法人自体に対象となっていれば、社長が仕事を続けられなくなったとしても、新しい社長に交代するだけで事業を継続することができます。

法人成りによる決算月を任意決定

個人事業は、毎年原則3月15日までに確定申告をすることが定められており、法人成りをしていなければ、年始めの忙しい時期に確定申告の準備をすることが必要になりますが、法人成りをすれば、決算月を自由に決められるので、比較的忙しくない時期に決算の手続きを行うことができます。

法人成りのデメリット

個人事業主から法人成りをしたときのデメリットは以下のようなものがあります。

・設立費用がかかる

・社会保険への加入義務がある

・事務作業が増える

・赤字の場合でも税金がかかる

・役員報酬(給与)が毎月同額になる

法人成りによってかかる設立費用

上述のとおり、法人成りには費用がかかり、株式会社を設立する場合は、約25万円程度の資金(電子定款の場合は約21万円程度)を用意する必要があります。

合同会社の場合は、最低約10万円(電子定款の場合は約6万円)かかります。

また、設立の手続きを司法書士などに依頼する場合は、さらに費用がかかります。

法人成りによる社会保険への加入義務

個人事業では、雇っている人が4人までであれば社会保険(健康保険と厚生年金保険)への加入義務はありませんが、法人成りをする場合、従業員の人数に関わらず、加入が義務となり、会社は社会保険料の半分を負担することになります。

また、社長一人の場合でも、個人事業主時の国民健康保険+国民年金の保険料よりも社会保険料のほうが高額になりますが、国民年金よりも年金受給額が増え、遺族年金や障害年金なども充実することになります。

なお、労働保険は1人でも従業員を雇えば個人事業であっても加入しなければなりません。

法人成りによる事務作業の増加

法人成りをすると、個人事業の時よりも提出書類が増え煩雑になります。

税理士と契約することになった場合は、税理士に支払う報酬が発生しますが、税理士の指導により効果的な節税を実施できれば、プラスに働きメリットも大きくなることが期待できます。

法人成りによる赤字時の税金支払い

個人事業主の場合は、赤字が出た際、年間数千円程度の個人住民税の均等割りしか生じませんが、法人成りをした場合、赤字だとしても法人住民税の均等割りは免れず、法人成りの結果として、最低7万円程度を納税しなくてはなりません。

法人成りによる役員給与の毎月同額化

法人成りをした場合、役員報酬は、決算日の翌日から3カ月以内に決定した「定期同額給与」しか経費として認められず、決算日から3カ月過ぎたあとに役員報酬の金額を変更してしまうと、経費として計上できなくなります。

つまり、法人成りした場合は、役員報酬を一年の間に自由に変えることはできず、一年間は毎月同額の給与となります。

法人成りのタイミング

一般的に事業が拡大し、売上高が1,000万円を超えて消費税の課税事業者となる少し前が、法人成りをする良いタイミングの一つとして上げられます。

また利益が500万円を超えたときも、法人成りに適したタイミングとされており、例えば

代表取締役として給与を500万円貰った場合、給与所得控除が受けられるため、給与所得控除と経費としての計上との二重控除が可能になるためです。

また「事業拡大」をしたいと思うタイミングでも、優秀な人材を集めたり、資金調達、販路拡大の点で、法人成りすることが有益に働くと思われます。

法人成りによる消費税納付の2年間免除

免税事業者は、2年前の課税売上高か、前年の前半6カ月の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の納税義務がある課税事業者となりますので、この少し前の時期に、法人成りすると、個人事業主時代の売上高は関係なくなり1期目と2期目は2年前の売上が存在しなくなるため、新設法人として特例である納税義務の免除が適用され、最大2年間は消費税の納税義務が免除されます。

特例の適用は、人件費(給与の支払額など)が1,000万円を超えないこと、設立1期目が7カ月以下であることも条件となります。

法人成りのよもやま話・豆知識

法人成りとインボイス制度

インボイス制度とは、令和5年10月1日からの消費税の仕入税額控除の方式として導入される制度で、適格請求書(インボイス)のやり取りが発生しますが、売り手側が免税事業者だと適格請求書が発行されず、買い手が課税事業者の場合は、仕入税額控除を受けることができなくなり、仕入れ先の変更を余儀なくされる場合があります。

インボイス制度の導入により、法人成りで最長2年の消費税免税のメリットは、令和3年10月1日までに法人成りを済ませた人に限られ、それ以降は、課税事業者と取引する場合のメリットはなくなります。

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