出国税(国外転出時課税制度)
2023-04-072023-04-07
一言でいうと?
出国税(しゅっこくぜい)とは、正式名称を「国外転出時課税制度(こくがてんしゅつじかぜいせいど」といい、出国税(国外転出時課税制度)は、時価1億円以上の有価証券等を所有している国内居住者が国外へ移住等する際に、所有している資産の含み益に対して課税される場合と、1億円以上の対象資産を所有等している国内居住者から、国外居住者へ贈与、相続又は遺贈されることに対して課税される場合があります。
出国税(国外転出時課税制度)とは
出国税(国外転出時課税制度)とは、国内から国外へ財産が移動する際に課税される税で、その課税の執行には大きく分けて2つのパターンがあります。
一つは、国外転出をする居住者が1億円以上の有価証券等を所有等している場合に、その国外転出の時に有価証券等の譲渡等があったものとみなして、含み益に所得税及び復興特別所得税が課税される場合です。
もう一つは、1億円以上の対象資産を所有等している国内居住者から、国外居住の親族等へ贈与、相続又は遺贈により資産の一部又は全部の移転があった場合、その対象資産の含み益に課税される場合です。
出国税が課せられるようになった背景
出国税は、平成27年度の税制改正により国外転出時課税として創設されましたが、その背景としては、日本で含み益のある株を持っている富裕層が、キャピタルゲイン(売却益)に対する税金が掛からないシンガポールや香港、マレーシアに節税目的で資産を持っていき、移住して売却するいうことが多くなっていたことがあります。
また国外に転出し居住した人が日本法人の株式を売却した場合、原則として日本では課税されず、居住している国で課税されます。
このような国外での課税逃れを抑制するために、出国税(国外転出時課税制度)が創設されました。
出国税が課せられる条件
出国税が課せられるのは、国外転出を行う国内居住者が、1億円以上の有価証券等を所有等していることに加えて、国外転出等を行う日以前の10年以内に、日本国内に5年を超えて住所や居所があることが条件となります。
出国税が課せられる1億円以上の有価証券等とは
出国税が課せられる1億円以上の有価証券等とは、以下のようなものを指します。
・株式や投資信託
・匿名組合契約の出資の持分
・未決済の信用取引、発行日取引
・未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)
出国税が課せられる1億円以上の有価証券等の判定とは
出国税が課せられる有価証券等の価格の1億円以上の判定は、上場株式の場合は原則として、納税管理人の届け出がある場合は、国外転出時の時価、納税管理人の届け出がない場合は国外転出予定日の3ヶ月前の時価、また非上場株式の場合は、相続税評価額をベースに一定の調整をした金額で評価します。
日本では、海外転居する場合には、所有する不動産の含み益に対して税金が掛けられるということは現在のところはありませんが、アメリカの出国税(国外転出時課税制度)は、不動産を含んだ全世界にある資産が対象となっています。
出国税が課せられる国内居住者の条件とは
出国税が課せられる国内居住者の条件は、国外転出等を行う日以前の10年以内に、日本国内に5年を超えて住所や居所がある人を指しますが、対象者の国籍は問われず、外国籍の人であっても、条件を満たせば対象者となります。
ただし就業ビザ等の在留資格による外国人駐在員や、出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格や、その他一定の在留資格 (外交、教授、芸術、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、短期滞在、留学等) で在留していた期間は、国内に住所又は居所を有していた期間に含みません。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度
出国税の申告をする方が、国外転出等の時までに、「納税管理人の届出」をするなど一定の手続を行った場合は、担保を提供した場合に限り、国外転出時課税の適用により納付することとなった税額について、出国税の納税を猶予することができます。
その大きな理由としては、出国税(国外転出時課税制度)はあくまで含み益に掛けられる税であり、実際には売却等をしていないため、その税金を支払うことが困難である事態が生じることがあるからです。
出国税(国外転出時課税制度)の申告・納付と納税管理人の届け出
出国税(国外転出時課税制度)の申告・納付・評価の基準の時期等は、納税管理人の届出を提出するか否かで変わります。
納税管理人の届け出なしの時は、出国税(国外転出時課税制度)の申告期限は国外転出時までで、申告価額は国外転出予定日から起算し3ヶ月前の価額となります。
また納税猶予制度は利用不可で、出国までに税の納付が必要です。
一方納税管理人の届け出ありの場合には、出国税(国外転出時課税制度)の申告期限は翌年の確定申告期限までで、申告価額は国外転出時の価額となります。
また確定申告の提出期限までの担保の提供と共に、出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の利用が可能となります。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の申請の手続き
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の申請の手続きの流れは次のとおりです。
・国外転出時までに納税管理人の届出をする
・所得税の確定申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載して、一定の書類を添付する
・納税猶予される所得税及び利子税額に相当する担保を提供する
担保の提供を含め、上記3つの手続きを確定申告期限までにすべて終わらせなければならないため、あらかじめ準備しておきましょう。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の猶予期間中に毎年やること
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間中は、各年の12月31日において所有等している対象資産について、「継続適用届出書」を翌年3月15日までに所轄税務署長へ提出する必要があります。
提出を忘れると、その期限から4ヶ月を経過する日をもって納税猶予が打ち切られるので注意しましょう。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の猶予期間の期限延長
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の猶予期間の期限延長を希望する場合は、「期限延長届出書」を国外転出日から5年を経過する日までに所轄税務署長へ提出すれば、納税猶予期限を5年延ばして10年に延長可能です。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予の担保
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予の担保として提供できるものは、国税通則法50条に定められています。
担保提供手続きに関する具体的な流れは、国税庁ホームページにある「相続税・贈与税の延納の手引」の担保提供手続等の一覧表を参考にしてください。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間中に売却した場合
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間中に、国外転出した人が有価証券等を売却した場合は、売却部分の所得税について納税猶予が打ち切られます。
その場合、売却日から4ヶ月を経過する日までに、売却部分に対応する納税が猶予されていた所得税及び利子税を納付しなければなりません。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間が満了した場合
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間が満了した場合は、満了日の翌日以降4ヶ月を経過する日までに猶予されていた所得税及び利子税を納付する必要があります。
出国税(国外転出時課税制度)の課税の取り消し
出国税の課税の取り消しとなるのは、以下の2つの場合がありますが、どちらの場合も出国税の課税の取り消しを確定されるための手続きが必要となります。
出国税の課税の取り消しとなる帰国の例
国外転出日から5年(納税猶予の延長の届出をしていれば10年)以内に、国外転出した人が帰国などした場合には、課税の取消しが可能です。
その帰国の時まで引き続き所有等している対象資産については、国外転出時課税の適用がなかったものとされますが、帰国日から4ヶ月以内に更正の請求手続きが必要です。
出国税の課税の取り消しとなる贈与・相続・遺贈の例
国外転出日から5年(10年)以内に、次に該当する場合にも出国税の課税の取消しが可能となります。
・国外転出時課税の申告をした人が対象資産を国内居住者に贈与した場合
・国外転出時課税の申告をした人が死亡し、対象資産を相続又は遺贈により取得した人すべてが国内居住者になった場合
どちらの場合も贈与、相続又は遺贈があった日から4ヶ月以内に更正の請求手続きが必要です。
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の適用時の所得税の減額措置等
出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の適用時には、所得税額の減額措置等が設けられており、納税猶予制度の適用を受けている者が、以下の場合に該当するときは、それぞれ以下の場合に該当することとなった日から4ヵ月以内に更正の請求をすることにより、所得税額を減額することができます。
・ 納税猶予期限までに対象資産を譲渡等した場合において、譲渡価額等が国外転出時の価額等を下回るとき。
・ 納税猶予期限が到来した場合において、期限到来日における対象資産の価額等が国外転出時の価額等を下回るとき。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税
時価1億円以上の有価証券等を保有している国内居住者が、海外に住む人へ有価証券等を贈与、相続又は遺贈した場合にも含み益に出国税が課税されます。
対象の贈与者・被相続人の条件は、贈与・相続時に保有している有価証券等の価額が1億円以上あることと、贈与日前・相続開始日前10年以内に国内在住期間が5年を超えていることで、国内居住者が国外転出した場合と同じです。
対象資産には非上場株式も含まれるため、事業承継において、自社株を海外に住む親族に贈与する場合に国外転出時課税の対象となる可能性があります。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税の条件
居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税の条件として、有価証券が1億円以上になるかどうかは、非居住者である受贈者・相続人が取得した資産の価額のみではなく、贈与時・相続時に、贈与者・被相続人が保有していた対象資産の価額の合計額で判定します。
また、国外転出した場合と同じように、含み損があるものや国外で保有しているものも対象資産の価額に含める必要があります。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の申告期限・評価時期
国外居住者に贈与した場合の出国税(国外転出時課税制度)の申告期限は、贈与した年の翌年3月15日で、対象資産は、贈与時の時価で評価します。
国外居住者に相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の申告期限は、相続開始日から4ヶ月以内で、対象資産は、相続開始時の時価で評価します。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税の課税の取り消し
国外居住者への贈与、相続又は遺贈があった場合、贈与日・相続開始日から5年(10年)以内に、次に該当する場合にも課税の取消しが可能です。
・受贈者・相続人が対象資産を国内居住者に贈与した場合
・受贈者・相続人が死亡し、対象資産を相続又は遺贈により取得した人すべてが国内居住者になった場合
贈与、相続又は遺贈があった日から4ヶ月以内に更正の請求手続きが必要です。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合、出国税の申告をする人が一定の手続きを行った場合には、贈与日・相続開始日から5年(延長の届出をしていれば10年)を経過する日まで納税が猶予されます。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続き
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続きの流れは、それぞれ次のとおりとなります。
国外居住者に贈与した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続き
国外居住者に贈与した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続きは以下のようになります。
・所得税の確定申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載して、一定の書類を添付
・確定申告期限までに、納税猶予される所得税及び利子税額に相当する担保を提供
納税義務のある贈与者は日本に住んでいるため、納税管理人の届出は不要です。
国外居住者に相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続き
国外居住者に相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予制度の手続きは以下のようになります。
・準確定申告期限までに、国外居住者である相続人全員が納税管理人の届出をする
・所得税の準確定申告書に納税猶予の適用を受ける旨を記載して、一定の書類を添付
・準確定申告期限までに、納税猶予される所得税及び利子税額に相当する担保を提供
担保の提供を含め、上記3つの手続きを相続開始日から4ヶ月以内にすべて終わらせることが必要となります。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の猶予期間中に毎年やること
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の猶予期間中に毎年やることは、国外転出した場合と同じように、毎年「継続適用届出書」を提出します。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の猶予期間の期限延長
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の猶予期間の期限延長は、「期限延長届出書」を贈与日・相続開始日から5年を経過する日までに所轄税務署長へ提出すれば、納税猶予期限を5年延ばして10年に延長可能です。
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予の担保
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予の担保として提供できるものは、国税通則法50条に定められており、担保になるものやその提供手続きは国外転出した場合と同じです。
国外居住者が出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間中に有価証券を売却した時
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の猶予期間中に、国外居住者である受贈者・相続人が有価証券等を売却した場合は、売却部分の所得税について納税猶予が打ち切られます。
その場合、売却日から4ヶ月を経過する日までに、売却部分に対応する納税が猶予されていた所得税・利子税を納付する必要があります。
また、その受贈者は、売却日から2ヶ月以内に、贈与者に売却した旨の通知が必要となります。
国外居住者への資産贈与の場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間満了時
国外居住者に贈与、相続又は遺贈した場合の出国税(国外転出時課税制度)の納税猶予期間が満了した場合は、満了日の翌日以降4ヶ月を経過する日までに猶予されていた所得税・利子税を納付する必要があります。
国外居住者への贈与、相続又は遺贈分の時価下落の時の出国税(国外転出時課税制度)
国外居住者への贈与、相続又は遺贈をした場合で、売却日・満了日の価額が贈与時・相続開始時の価額よりも下落していた場合は、売却日・満了日から4ヶ月以内に更正の請求手続きを行うことで、所得税を減額することができます。
出国税(国外転出時課税制度)のよもやま話・豆知識
もうひとつの出国税(国外転出時課税制度)度
出国税(国外転出時課税制度)と呼ばれるものには、もうひとつ「国際観光旅客税」があり、出国1回につき1,000円を支払う制度で、船舶または航空会社が、チケット代金に上乗せして旅客から徴収し、国に納めます。
この制度では、2歳未満の者、強制退去者等、政府専用機等公用機や公用船で出国する者、天候等やむを得ない理由により外国に寄港せず日本に帰ってきた者、24時間以内に出国する乗継旅客者、天候等やむを得ない理由により日本に寄港した国際船舶等の乗船者、搭乗者、公用の外交官・領事官等、国賓などは、国際観光旅客税を免除されます。