財産分与
2023-01-122023-01-12
一言でいうと?
財産分与(ざいさんぶんよ)とは、離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度で、財産分与は、主に、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配、離婚後の生活保障、離婚の原因を作ったことへの損害賠償の3つの意味合いがあり、請求には離婚から2年の期間制限があります。
財産分与とは
財産分与とは、名義のいかんにかかわらず、婚姻中に夫婦で築き上げた財産(預貯金・自動車・生命保険・家など)を離婚する際に分けることで、夫婦ともに相手方に請求することができ、財産分与を請求する側が仕事をしている場合や、離婚原因を作ってしまった側である有責配偶者からでも相手方に請求することができます。
財産分与は、後述する一部の例外を除いて、基本的に不動産取得税などの税金はかかりません。
請求には離婚から2年の期間制限がありますが、既に別居している場合、財産分与の基準時点は別居時となります。
財産分与の3つの種類
財産分与には、大きく分けて3つの種類があります。
清算的財産分与…夫婦が婚姻中に形成した共有財産の清算
扶養的財産分与…離婚により困窮する(元)配偶者の扶養
慰謝料的財産分与…(元)配偶者を傷つけたことに対する慰謝料としての意味を含むもの
この中で一番中心となる分与は、清算的財産分与です。
財産分与の額の決め方
財産分与の額は、まずは当事者間の協議によって決めますが、弁護士を代理人として委任することも可能です。
婚姻期間に得た財産を2分の1ずつ分け合う1/2ルールを基点として、個別事情を考慮して決めることが多いです。
当事者間で協議が調わないときや,協議が不可能な場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができますが、期限は離婚の日から2年以内となります。
家庭裁判所の審判では、共働き、一方が専業主夫・主婦のケースのいずれでも財産を2分の1ずつに分けるように命じられることが多くなっています。
配偶者が専業主夫・主婦の場合の財産分与
専業主夫・主婦の場合であっても、家事によって配偶者の労働を支え夫婦の財産形成に貢献したと考えられ、財産分与の割合は原則として2分の1ですが、個々の事情によって評価が変わる場合もあります。
なお、離婚によって専業主夫・主婦だった配偶者が生活に困窮するような場合には、扶養的財産分与が認められる可能性もあります。
子供がいる場合の財産分与
基本的に、子供がいても、財産分与の割合は、原則通り2分の1で変わることはありません。
ただし、子供を育てる当事者が、離婚後の生活に困窮してしまうような場合、扶養的財産分与が認められることがあります。
また未成年の子供がいる場合には養育費の請求が可能ですが、これは財産分与とは別の問題となります。
財産分与請求調停について
財産分与の調停手続の利用は,家庭裁判所に財産分与請求調停事件として申立てをし、離婚前の場合は、夫婦関係調整調停(離婚)の中で話合いをすることができます。
財産分与の調停手続では、当事者双方からの事情聴取および資料等提出により、解決案が提示されたり、また助言を受けるなどして、合意を目指し話合いが進められます。
話し合いがまとまらなかった場合は、調停不成立として自動的に審判手続が開始され、裁判官が必要な審理を行った上、審判をすることになります。
財産分与の対象となる財産、ならない財産
離婚後に財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻期間中に築いたすべての財産で、これを「共有財産」といいます。
途中別居期間があっても、離婚を前提とした別居でなければ婚姻期間中に含まれ、また婚姻前の同棲期間も、2人で協力して貯めた預貯金などは財産分与の対象になります。
一方、夫婦それぞれの個人的な財産とみなされ、たとえ婚姻期間中に取得したものであっても財産分与の対象にはならない財産を「特有財産」といいます。
財産分与の対象となる共有財産の種類
財産分与の対象となる共有財産には、主に以下のようなものがあります。
・現金・預貯金(婚姻後のものであれば、名義人はどちらでもよい)
・有価証券(株式・国債など)、投資信託
・不動産(土地・建物など)
・家具・電化製品
・自動車
・金銭的価値の高い品物(骨董品・絵画などの美術品・宝石・着物など)
・ゴルフ会員権など
・保険料(自動車・生命・個人年金・損害・学資保険など)
・退職金
・負債(住宅ローン・子どもの教育ローンなど)
など
上記のものは、財産分与の対象となります。
財産分与の対象とならない特有財産の種類
財産分与の対象とならない特有財産には主に以下のようなものがあります。
・婚姻以前にそれぞれが取得した財産(負債を含む)
・それぞれの家族・親族から贈与された、または相続した財産(婚姻期間中を含む)
・婚姻後、趣味・浪費・ギャンブルなどのために個人的に作った借金
・別居後に各々が取得した財産
・年金は、厚生年金や共済年金の分割割合を定めたい場合は「請求すべき按分割合に関する処分(年金分割)」という別の仕組みで分割します。
上記のものは、財産分与の対象とはなりません。
財産分与の分割方法例
生命保険・学資保険は、一般的には、解約返戻金を確認し、その金額に基づき財産分与額を決めますが、解約して解約返戻金を分ける方法や、一方が加入保持し、解約返戻金に相当する金額の1/2を支払う方法などがあります。
株券・出資金・車・宝石類・不動産などは時価やディーラーに査定してもらった評価額で財産分与割合を決めますが、売却の場合には、売却費用やローンの残債務を差し引いて財産分与し、売却をしない場合には、所有する側が評価額のうちの一定割合を相手に支払うなどの方法がとられます。
退職金・保険金の財産分与の注意点
まず保険金は、一方が婚姻以前に支払っていた期間分の解約返戻金は、財産分与の対象とはなりません。
また退職金も、すでに退職金が支払われている場合、退職金としての財産が残っている分は分割可能ですが、すでに消費してしまっている場合は、財産分与の対象としては扱われない可能性が高いでしょう。
未払いの退職金は、将来受け取るはずの財産を現在支払ってもらうことに対する利息が差し引かれる可能性があり、保険金と同様、財産分与の対象となるのは、婚姻期間に相当する金額であることにも注意が必要です。
不動産の財産分与の注意点
持ち家・不動産は、査定で評価額を出し、売却の場合は、ローンの残債務や売却にかかる費用などを差し引いた金額を分けますが、売却しない場合には、所有する側がしない側へ評価額の一定割合を支払い、財産分与を行います。
住宅の売却でも残債務が完済できないオーバーローンの場合、一方が住宅を取得してローンを負担し、オーバーローン部分は他の財産の清算で調整する方法などがあります。
夫婦で連帯債務者、一方が債務者、もう一方が連帯保証人などの場合は、離婚後も住宅ローン契約上の関係は解消できない場合もあります。
負債の財産分与の注意点
住宅や自動車のローン、子どもの教育ローン、生活費のために借りた借金といったマイナスの財産も、財産分与の対象ですが、ただし、浪費やギャンブルなどのために一方が個人的に作った借金は、たとえ婚姻中のものであっても共有財産には含まれません。
マイナスの共有財産がある場合は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引き、残った財産を分割する方法が一般的です。
財産分与のための共有財産のチェック
財産分与の際に、相手側の財産を証明できない場合は、財産として認めてもらえない可能性があります。
預貯金については、銀行の通帳原本かコピー、生命保険については生命保険証書原本かコピー、証券口座については、証券証書か証券会社から送られてきた報告書のコピーなど、最大限に集めて準備しておきましょう。
夫婦でも、お互い知らない口座があったり、有価証券を持っていたりすることがあることを念頭にチェックすることが重要で、持ち家の価値も事前に調べておくとよいでしょう。
財産分与のための財産照会方法
財産分与の準備として、上記の場合のように、当事者が調べられるもの以外について、相手に対し、直接、「~銀行~支店の婚姻日から現在までの通帳の内容を開示してください」などと通帳の開示請求をすることもできますが、任意の要求のため、拒否されることもあります。
財産分与のための財産照会方法には、直接自分で調べたり、相手に聞いたりする方法以外に、「弁護士会照会」や「調査嘱託」という方法があります。
財産分与における弁護士会照会
弁護士会照会とは、弁護士が訴訟その他裁判所での手続を行うために弁護士法23条の2に基づいて必要な資料や証拠を収集し、調査することができる制度です。
弁護士でないと使えない手段であるため、弁護士照会を利用するためには弁護士に事件を依頼する必要がありますが、事案によっては弁護士会が照会を認めない場合や、照会先が回答を拒否する場合もありますので、必ず調査できるとは限りません。
財産分与における調査嘱託
調査嘱託とは、裁判所から金融機関や会社に対して、預金口座の有無や残高などの情報開示を求める制度です。
調査嘱託は裁判所を介した調査手法で、調査嘱託を利用することによって、相手名義の口座に関する取引情報について回答を得て隠された財産を突き止められる可能性が高まります。
ただし、調査嘱託をする場合、相手方の口座の銀行名や支店名は特定する必要があります。
財産分与の共有財産の保全
離婚を切り出した後、財産分与の話し合いの前に不動産を売却されたり、保険を解約されたりして共有財産を勝手に処分されそうなときは、家庭裁判所へ財産分与請求の調停を申し立てるとともに、「財産処分禁止の審判前保全処分」の申立てをして共有財産の保全を図ることができます。
なお、審判前の仮差押え、仮処分申請は、調停中でも手続きを取ることもできます。
財産隠匿を防ぐには、相手の保有する財産を把握し、写真やコピーをとるなどの証拠保全を行ってから離婚を切り出すことも、損をしないためのポイントになります。
財産分与の税金
財産分与の際は、贈与税・不動産取得税は原則かかりませんが、以下の場合には税金が発生します。
登録免許税…財産分与で家の名義を変更する場合には、登録免許税がかかります。
譲渡所得税…財産分与の際に、家の時価が取得時より値上がりしていた場合、その差額に対して譲渡所得税がかかりますが、居住用不動産の場合は、3000万円の特別控除があります。
また夫婦の共有財産の額、財産分与の額が多すぎる場合や、税金を不当に免れるために、離婚が行われたと認められる場合も税金が発生する場合があります。
財産分与のための離婚協議書の作成
すべての話し合いがまとまったら、財産分与の他に慰謝料や養育費など離婚に関する条件を記載した「離婚協議書」を作成することをお勧めいたします。
口約束では支払いが滞ったときに対処ができませんが、離婚協議書を作成することにより、裁判等で証拠として利用できます。
離婚協議書は、強制執行認諾文言を付した公正証書で作成することにより、支払いが途絶えた際に訴訟手続きをすることなく、給与の差押え等強制執行を行うことができます。
具体的な離婚協議書の内容、作成方法については、弁護士にご相談ください。
財産分与をしない方法
財産分与をするかしないは、夫婦それぞれの判断に委ねられており、お互いが納得すれば、財産分与をしない離婚も成立します。
このように財産分与をしない選択をすることを、「財産分与請求権の放棄」といいます。
ただし、一旦財産分与請求権を放棄した場合、特段の事情がない限り、後から気が変わっても放棄の撤回はできません。
再び財産分与を求めることはできないため、慎重に検討しましょう。
財産分与のよもやま話・豆知識
へそくりは財産分与における共有財産か
へそくりは、生活費を上手くやりくりして貯めたお金なので、やりくりした個人のものだと考える人もいると思いますが、へそくりは、基本的には婚姻中の生活費の中から発生する、共有財産として、財産分与の対象になると考えられています。
ただし、配偶者に浪費癖があるため、将来を案じて生活費を切りつめて貯蓄していたなどの特別の事情があれば、財産分与の際、相手に分割するへそくりは1/2よりも少ない割合が妥当だと判断される可能性もあります。