圧縮記帳
2022-12-202022-12-20
一言でいうと?
圧縮記帳(あっしゅくきちょう)とは、補助金を受け取って設備投資をした時などに、課税負担を一時的に減らし、税金を繰り延べする会計処理で、圧縮記帳を行うことにより、受け取った補助金への課税を一時的に回避することができ、補助金の効果を設備投資に生かすことができます。
圧縮記帳とは
圧縮記帳とは、設備投資などの有形固定資産の取得に際して補助金を受けたような場合に、その取得価額を圧縮して圧縮損を計上し、補助金の益金の額と圧縮損の損金の額とを相殺し、一時的に補助金分の課税負担を軽くする方式のことをいいます。
補助金の圧縮記帳は、補助金効果の低下や補助金の国策的な位置づけを考慮し 法人税法で特例として認められた制度です。通常、受け取った補助金は益金の額に算入されるため、補助金に対しても税金がかかりますが、この圧縮記帳を受ける場合には、原則として補助金で取得した購入した固定資産の取得価額は、損金の額に算入され補助金の益金算入額と相殺されます。
圧縮記帳を適用できるケース
圧縮記帳を適用できるケースは、以下の通りとなります。
法人税法上の圧縮記帳の場合
・国庫補助金等で取得した固定資産等
・工事負担金で取得した固定資産等
・非出資組合が賦課金で取得した固定資産等
・保険金等で取得した固定資産等
・交換により取得した資産
租税特別措置法上の圧縮記帳の場合
・農用地利用集積準備金を取り崩して取得した農用地等
・収用等に伴い取得した資産
・換地処分等に伴い取得した資産
・特定の資産の買換え等により取得した資産
など
圧縮記帳の経理処理
圧縮記帳を行う場合には、確定決算において以下2つの中から選択して経理処理します。
・損金経理により「圧縮損」を使い帳簿価額を直接減額する方法
・剰余金の処分により「積立金」として積み立てる方法
また確定申告書には圧縮額等の損金算入に関する明細書を添付しなければなりません。
圧縮記帳の補助金の条件
圧縮記帳のうち、実務で最もよく目にするのは国庫補助金の圧縮記帳です。法人税法では、圧縮記帳の対象の補助金や法人の条件を次のように限定しています。
・国や地方公共団体から受け取る補助金、給付金、あるいはこれらに準ずるもので政令に定めるもの(国庫補助金等)の交付を受けること
・国庫補助金等をもって交付された事業年度に固定資産の取得や改良に充てたこと
・国庫補助金等が交付された事業年度の末日までに国に返還不要が確定したこと
・国庫補助金等を受け取った法人が清算中でないこと
圧縮記帳を使えるのは、固定資産の取得に充てた補助金のみとなり、専門家への報酬などは除外されます。
圧縮記帳を適用できる限度額
圧縮記帳は法人税の制度ですが、取り扱う内容によって適用する法律が異なり、限度額も異なります。
国庫補助金の圧縮限度額は、固定資産の取得等に充てた国庫補助金の額となり、工事負担金の圧縮限度額は、固定資産の取得価額から提供を受けた金銭の価額を控除した金額となります。
また保険差益や交換差益など、その他の補助金にもそれぞれの限度額や限度額の計算法があります。
租税特別措置法に規定されているものについては、圧縮記帳の適用限度や期限を事前に確かめるようにしましょう。
圧縮記帳の種類
圧縮記帳には、実務では「直接減額方式」そして「積立金方式」あります。
圧縮記帳の「直接減額方式」の例
国庫補助金300万円を受け、同時に機械500万円を取得、残額は自己資金を充てた場合で、減価償却は定率法で償却率0.25として計算した場合の初年度の経理処理の例を紹介します。便宜上、法人税率は30%とします。
圧縮記帳をしない場合の仕訳
国庫補助金受取時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円
機械購入時
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円
減価償却費の計算は、500万円 × 0.25 = 125万円。
期末の減価償却計上
(借方)減価償却費125万円/(貸方)機械125万円
圧縮記帳をしない場合の法人税の計算
上記の仕訳より、「補助金受贈益300万円(益金)」「減価償却費125万円(損金)」となり、当事業年度の法人税〔補助金受贈益300万円(益金の額)-減価償却費125万円(損金の額)〕 × 30%=52万5000円が法人税額となります。
結果、実質的に受け取った国庫補助金は300万円 – 52万5000円=247万5000円となります。
圧縮記帳をした場合の直接減額方式の仕訳
国庫補助金受取時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円
機械購入時
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円
ここで受け取った補助金の分だけ圧縮損を計上(圧縮記帳)します。
(借方)圧縮損300万円/(貸方)機械300万円
機械の取得価格は500万円ではなく500万円 – 300万円 = 200万円になり、減価償却費の計算は、200万円×0.25=50万円となります。
期末の減価償却計上
(借方)減価償却費50万円/(貸方)機械50万円
圧縮記帳をした場合の法人税の計算
「補助金受贈益300万円(益金)」「圧縮損300万円(損金)」「減価償却費50万円(損金)」となり、法人税課税対象が、補助金受贈益300万円(益金の額) – 圧縮損300万円(損金の額)-減価償却費50万円(損金の額)=▲50万円
結果50万円の赤字で、当事業年の法人税の額は0円となり、受け取った国庫補助金は300万円そのままということになります。
圧縮記帳をしない場合とした場合の翌年の法人税の比較
先ほどの事例で翌期の減価償却費は、圧縮記帳をしない場合は、
(500万円-125万円) × 0.25 = 93万7500円
一方、圧縮記帳をした場合の翌期の減価償却費は、
(200万円-50万円)× 0.25 = 37万5000円
つまり、圧縮記帳をすると、翌期の減価償却額は56万2500円少なくなり、圧縮記帳をすると、翌年は、税金ベースでは17万円近く増税されることになります。
圧縮記帳の「積立方式」の例
上記と同じ条件で、国庫補助金300万円を受け、同時に機械500万円を取得、残額は自己資金を充てた場合で、減価償却は定率法で償却率0.25として計算した場合の例です。
国庫補助金の交付と機械装置の取得については、直接減額方式と同様の仕訳です。
圧縮記帳をした場合の積立方式の仕訳
国庫補助金受取時
(借方)現預金300万円/(貸方)補助金受贈益300万円
機械購入時
(借方)機械500万円/(貸方)現預金500万円
積立金の計上
(借方)繰越利益剰余金300万円/(貸方)圧縮積立金300万円
償却費の計上
(借方)減価償却費125万円/(貸方)機械装置125万円
積立金取り崩し
(借方)圧縮積立金75万円/(貸方)圧縮記帳積立金取崩額75万円
圧縮記帳をした場合の積立方式の仕分け手順
上記の機械は減価償却し500万円 × 0.25 = 125万円です。
税務上の簿価は補助金を差し引き500万円 – 300万円 = 200万円ですので、圧縮積立金の300万円を耐用年数で取り崩して加算調整を行います。
300万円(圧縮積立金) × 0.25(償却率) = 75万円が圧縮限度額となり、減価償却費の損金とは認められないので、圧縮積立金から差額分75万円を取り崩します。
損金(減価償却費)125万円に対し、益金(圧縮記帳積立金取崩額)75万円の計上で、直接減額方式での減価償却費50万円と同結果となります。
圧縮記帳のメリット・デメリット
圧縮記帳のメリットは、補助金分の収益を小さくし、その分税金が課されないようにすることで、補助金を受け取った年に、たくさん税金がかかるというダメージを避け、企業の投資意欲や事業拡大意欲を低下させない効果を与えることです。
ただし、課税負担は、一時的に繰り延べられたもので、翌年からは圧縮記帳をしなかった場合より課税負担が重くなるデメリットがあります。
また多くの圧縮記帳資産を持つと、資産管理面で他と区別する等の作業が増えるのもデメリットです。
圧縮記帳のよもやま話・豆知識
圧縮記帳の補助金に消費税はかかるか
支給された補助金は、法人税の課税対象にはなりますが、消費税の課税取引にはあたらず、会計処理の課税区分は「不課税」となります。
ただし補助金を使用する対象に消費税が含まれている場合、返還が必要になることがあります。
消費税は、売上価格の消費税から仕入れ価格の消費税(控除対象仕入税額)を差し引いた額を納税しますが、補助金対象の資産の課税売上割合が95%未満、または課税売上高5億円超の事業者の場合は、控除対象仕入税額分を全額控除できないため、個別対応方式と一括比例配分方式のどちらかを選択します。